江戸園芸ブームと植物画

園芸の盛んだった江戸時代、その趣向は前半の樹木から後半は草花へと移ってゆきますが、草花で人気どころは、キク・アサガオ・ハナショウブ・フクジュソウ・オモト・マツバランといったところで、どういう訳か、色・形の変わった珍品が好まれる趣向がありました。
キクもアサガオも日本の在来種ではなく、キクは律令国家誕生のころにすでに伝来していたようで、またアサガオは8世紀ごろに薬草として日本にもたらされたといわれ、ともにさまざまな品種が登場してゆきます。
園芸植物としてのアサガオ栽培の第1次ブームは江戸時代の文化文政期1804~1830)、第2次ブームは嘉永安政期(1848~)であったと言われ、突然変異による「変化朝顔」の栽培も盛んであったようです。遺伝学のメンデルの法則が一般に知られるようになる1900年代に先駆けて、種の出来ない変異を持つ変化朝顔の栽培が経験則的に行われていたようです。

当時の浮世絵に花鳥画版画があったところをみると、需要と供給の関係が成り立っていたわけで、花を愛でる文化は庶民に広がっていたと言えそうです。
季節の草花が植木鉢に植えられて縁日で売られている様子が、四季折々の風物詩として浮世絵に描かれていますが、そうした鉢植えが贈り物としても人気があったというのは、人の営みの機微というのは時代を越えていると言えます。
浮世絵の植物画というものもなかなか味があってよい感じで、園芸文化が栄えるとともに絵画文化が栄えたのです。

花鳥画の様な美術絵画的な趣はありませんが、今流にいえば「植物ガイドブック」と言えそうな絵入りの図譜が、様々発刊されています。当時の図鑑挿絵がどんなものであったかというのも興味がわくところですが、当時の人が図譜をコピーしようとすると、方法は書き写し以外に手段はないので、これが繰り返されると、オリジナルと写本とが大きく異なるということも多々あったようです。

菊の図譜としては、『画菊』潤甫〔原画〕元禄4(1691)刊があり、100品の菊が描かれています。手彩色だそうです。

















朝顔の図譜としては、第2次ブームの頃に作られた『朝顔三十六花撰』(万花園主人撰・服部雪斎画 嘉永7 (1854) 刊 があり、当時流行った珍品朝顔36品が描かれています。黄色い朝顔のようなので、このページを掲載してみました.。

















オモトの図譜としては、『小おもと名寄(こおもとなよせ)』水野忠暁編・関根雲停画 天保3 (1832) 刊 があり、当時は葉に斑のある珍品が好まれましたが、鉢もなかなか珍品というか趣向豊かです。展示会に際して刊行された刷り物で、各帖とも15品、全90品が描かれています。


今年(2013年)開催された江戸東京博物館の「花開く江戸の園芸」(7月30日~9月1日)では、関連イベントで「変化朝顔栽培コンテスト」が行われました。
これは、《前売券を江戸東京博物館の窓口でご購入の方、先着500名様に変化朝顔の種(5粒)をプレゼント》というものだったのですが、子供たちの夏休み自由研究には良かったようで、これも朝顔なの、というような見事な花が開いておりました。⇒ 江戸東京博物館「 変化朝顔便り 」  http://edo-engei.jp/vote/

朝顔は遺伝子などの研究分野でも貴重な対象植物のようで、ライフサイエンス分野のプロジェクトで体系的な研究がされています。
⇒ ナショナルバイオリソースプロジェクト http://www.nbrp.jp/

朝顔は日本人にとっては園芸や浮世絵といった文化面で身近であるばかりでなく、科学の分野でもなかなか奥の深い植物のようです。

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