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6月, 2014の投稿を表示しています

印象派の時代の写真

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第1回印象派展(1874年)は、旧態然としたサロン画壇に満足しない画家達が独自に開いた展覧会で、この時の正式な展覧会の名前は「画家、彫刻家、版画家の匿名作家協会展覧会」でした。「印象派」という呼称は、美術記者の批評からでてきた嘲笑的な表現でしたが、第3回展からその表現が採用され「印象派展」となります。 フランスのキャプシーノ大通り35番地、そこにあるナダール写真スタジオの2階、ここが第1回展の会場でした。 写真は記録や肖像写真の分野でその領域を拡大しつつあった当時の先端テクノロジーで、ある意味画家達の職域を多かれ少なかれ侵食していたわけで、印象派も新興勢力という意味では共通項はあるものの、何とも微妙な感じです。 当時の写真はどんなものだったか、現存オリジナルを見ないと実体はハッキリしませんが、いろいろなデータからそのレベルを伺うことができます。 印象派展の1874年という年代がピンと来ないという方は、日本で比較的よく知られている坂本龍馬の写真が1866~67年頃長崎で撮られたものとされているので、これを年代基準にしておいていただくとよいかと思います。 フランスのナダール写真スタジオのナダールは、当時のフランスでは名の知れた写真家で、多くの文化人、軍人、女優、画家などの肖像を撮影しています。日本との関わりで見れば、1862年の第1回遣欧使節団、1864年の第2回遣欧使節団の一行の写真もナダールによって撮られています。ナダールのフルネームは、ガスパール=フェリックス・トゥールナション(Gaspard-Felix Tournachon)、1820年生-1910年没。息子はポール・トゥールナションですが、ポール・ナダールと名乗っている場合があります ナダールの仕事を数枚ピックアップして、当時の写真の様子を見てみます。 ※掲載の写真はすべて収蔵美術館の著作権をクリアーしたものですが、当サイトからの写真並びに記述の転載は、ご遠慮下さい。 =/=/= Self-Portrait as an Aeronaut(ナダールのセルフポートレート)1863年 気球研究家でもあったナダールですが、乗っているカゴは少々窮屈そうながら、背景は海に見立てた背景画がセットされているようで、気球のプロモーション写真といったところでしょうか。写真が単に前に立った人を写すとい

文化創造の都市

文化の創造や発信が地域の人や生活を豊かにし、さらに世界に注目されることによって人や物の交流が世界規模で活発化するとすれば、文化創造の推進は豊かな地域環境創りということだけに留まらず、経済を牽引し都市の国際化につながる大きな経済効果を秘めていると言えます。 来る東京オリンピック開催に合わせ、東京の様々な文化をアピールしようとするプロジェクトがいろいろ検討させているようですが、世界的なイベントであるがゆえに、さまざまな波及効果が期待されます。 さて、カテゴリーを「文化芸術」としたとき、主要都市の行政の取組体制はどうなっているのか、重要なのは組織名ではなく実際の施策の中身なのですが、管轄部門名称は物事への取組の姿勢としての切り口なので、政令指定都市20市と東京都について見てみました。 札幌市:観光文化局>文化部 仙台市:市民局>文化スポーツ部>文化振興課 さいたま市:市民・スポーツ文化局>スポーツ文化部>文化振興課 千葉市:市民局>生活文化スポーツ部>文化振興課 横浜市:文化観光局> 川崎市:市民・こども局>市民文化室 相模原市:市民局>文化振興課 新潟市:文化スポーツ部>文化政策課 静岡市:生活文化局>文化スポーツ部>文化振興係 浜松市:市民部>文化生活課 名古屋市:市民経済局>文化観光部>文化振興室 京都市:文化市民局>文化芸術都市推進室>文化芸術企画課 大阪市:市民局> 堺市:文化観光局>文化部>文化課 神戸市:市民参画推進局>文化交流部 岡山市:市民局>文化振興課 広島市:市民局 北九州市:市民文化スポーツ局>文化振興課 福岡市:経済観光文化局>文化振興部>文化振興課 熊本市:観光文化交流局>文化振興課 東京都:生活文化局>文化振興部 あくまでも、「名称のみから受ける印象」という前提で話を進めます。 ・京都市の「文化芸術都市推進室」という切り口は、『PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015』を計画している京都らしい先端的な切り口です。景観資産豊富な京都ですが、『PARASOPHIA』という言葉には京都は消費の都市ではなく知や文化の創造の場でありその装置なのだ、という思いがこめられているそうです。 ・東京都は「生活文化局>文化振興部」とありふれていますが、東京文化発信のプロジェクトは、能動的多角的実質的に高いレベルで進んでいます。 ・「観光・文化」という切り

ヨコハマトリエンナーレ2014_2014/8/1>11/3

「ヨコハマトリエンナーレ2014」が開催されます。 日程:2014年8月1日>>>11月3日; 主会場:横浜美術館、新港ピア http://www.yokohamatriennale.jp/2014/index.html ヨコハマトリエンナーレは2001年に始まった現代アートの国際展で、今回で5回目を迎えます。 過去4回の入場者数とチケット販売数を見てみると次の通りです。(主催者発表データより、*入場者数は延べ人数) ・2001年第1回:総入場者数35万人、有料入場者数15万人、チケット販売数17万枚 ・2005年第2回:総入場者数19万人、有料入場者数16万人、チケット販売数12万枚 ・2008年第3回:総入場者数55万人、有料入場者数31万人、チケット販売数9万枚 ・2011年第4回:総入場者数33万人、有料入場者数30万人、チケット販売数17万枚 この数字をどう見るかなかなか難しいところですが、「総じて動員数が少ない」という印象です。 第4回より主催の主軸が横浜市に移って横浜美術館が主会場のひとつになりましたが、運営組織が大きくなればなにかと調整が大変になるものの、都市の基幹美術館のあるべき姿です。第1回のときの会場は、パシフィコ横浜と赤レンガ倉庫でしたが、パシフィコ横浜は商業見本市会場の印象があって少なからず違和感がありましたが、天井が高いので、見上げるような巨大なオブジェを展示する作家さんを前提にすると、実際問題としてここしかありません。 「現代アート」という切り口は、今や万能薬のように狭義にも広義にも極めて便利に使われていて、そのしきい値が相対的で定まらない極めて緩慢な範疇で、近年は「現代アート」の名のもと、ビエンナーレ、トリエンナーレ流行りで、「現代アート」と言ってしまえばその質を問わず何でもかんでも通ってしまうようなところがあって、動員数が多く観光事業的には成功でも中身が希薄なものが少なくありません。また、全体的な傾向として教育プログラムとか連携プログラムが盛り沢山で、展示型から参加型イベントになっていて、これは盛り上げとか観客動員数を増やすという面では必要なことですが、大切なのは中核の中身です。 国際化が進めば進むほど都市固有の文化、継続的な創造力、発信力といった真の文化力が問われます。文化は美術に限定されず広範囲に及びます。時代

印象派の誕生_オルセー美術館展

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オルセー美術館展「印象派の誕生」がはじまります。 2014年7月9日-10月20日東京・六本木の国立新美術館 マネ、モネ、ルノワール、ドガ、セザンヌら印象派を牽引した画家たちの作品を始め同時代のコロー、ミレー、クールベ、カバネル、ブグローらの作品全84点が展覧されるということなので、同時期に開催されるジャポニスム展(2014年6月29日~世田谷美術館)と合わせて観覧すれば、19世紀のヨーロッパ、とりわけフランスを中心とした絵画の流れを比較しながら総覧できそうです。 第一回印象派展(1874年)にいたるまでのフランス美術の押さえどころ ###  ###  ### そもそも美術は社会を支配していた宮廷や教会を前提に存在していたので、そのあり方は必然的に宮廷絵画や権力者顕彰の歴史画、そしてまた神話世界の宗教画で、同時にそれらが絵画価値として最上位の位置にありました。18世紀後半のフランス革命、それに続く19世紀前半の市民革命という時代の変遷を経て、美術は宮廷や教会の束縛から解放され、次第に作家の視点で捕えられた対象を自由に表現するように発展して行きます。 18世紀後半のフランス革命以降、古代ギリシャローマ時代への回帰的風潮によって「古典主義」が台頭してきます。パリの数ある凱旋門はその時代の産物です。一方で、形式的で模倣的なその古典主義とは正反対に、民族精神の母胎とも言える中世宗教精神を新しい時代に理想化しようとする情熱的理想風潮の「浪漫主義」が現れてきます。中世以来の大寺院、例えばパリのノートルダム寺院の復旧や中世イメージの建物が造られました。産業革命による産業の隆盛で19世紀前半から中間裕福層が増え、この新興層が好んだものが肖像画と自宅の客間を飾る伝統的絵画で、19世紀中頃は依然として「古典主義」と「浪漫主義」が混在して幅を利かせていた時代です。###  ###  ### コローやミレーに代表されるハルビゾン派 産業革命による社会の目まぐるしい近代化、そして市民革命による自由平等思想という社会的な潮流の中で、都会の騒音を離れた自然風景やそこに暮らす人の情景そのものを絵画の対象としてありのままに描こうとする画家達が現れます。パリの郊外のハルビゾンを拠点にしたことから「ハルビゾン派」と呼ばれますが、社会の近代化の中で登場した新しい自然主義絵画で、例えば農民の生活を情緒深く描

うらやまはくすりばこ (by米本久美子)

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「うらやまはくすりばこ」米本久美子作(福音館書店 月刊科学絵本「かがくのとも」7月号、¥本体389+消費税)が6月に発刊となりました。春休みに田舎のおばあちゃんの家に遊びに行った子供が転んで足を擦りむいたのがきっかけで、おばあちゃんから自然に生えている植物の薬のことを聞くはなしです。薬について監修されている河邉誠一郎さん(倉敷芸術科学大学教授)のコメントによると、経験的に薬として用いられてきた自然界のものを「生薬」、550年以降中国から入ってきた「漢方」に対して日本古来のものを「和方(わほう)」と呼び、西洋文明傾倒の明治期以降「生薬」はマイナーな存在になったようです。 「生薬」は薬であると同時に日本人の食べ物でもあったわけですから日本の食物文化なのですが、とは言え、名前は聞いたことはあっても自然界に生えているものを特定するというのは難しい話なので、「うらやまはくすりばこ」を片手に薬用植物園巡りが良さそうです。 「月刊かがくのとも」を扱っている書店の案内 >>>  http://www.fukuinkan.co.jp/buy_selpref_show.php

山寺の天井画 永年寺

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岡山県北の美咲町東垪和(はが)にある永年寺本堂の天井画「美咲町四季草木花図(全64図)」、2011年6月落成で今年2014年6月で丸3年となります。時間を経てこうして天井画を拝観してみると、天井画はお寺にとっても地域の人々にとっても良い記念碑であるとともに、四季草木花は地域の自然が溢れるアートセラピーの趣があります。制作者は都会からの移住でこの地に住む画家の田中佳美さん。 人と人との関わりというものは不思議なもので、ご住職が岡山県津山市の葬祭場でハスの花を描いた田中さんの作品をご覧になったのがきっかけだったそうで、天井画スタートは5年前の2009年春、制作に2年を要しています。 耐候性を重視して色材は特殊な絵具類をご用意したので、その後の様子が気にはなっていたもののなかなか伺う時間もとれず、今回近くまで来たので事前の連絡もなしに突然お邪魔したのですが、ご住職の丁重なご対応に合掌。 永年寺:岡山県久米郡美咲町東垪和504 〒709-3416 TEL:0867-27-3511