フランス18世紀中頃のパステル画

現在(2015年7月)京都市美術館で開催されている「ルーヴル美術館展-日常を描く-風俗画に見るヨーロッパ絵画の真髄」で展示されている18世紀中頃のフランス絵画、例えば、ジャン・アントワーヌ・ヴァート「二人の従姉妹」、フランソワ―・ブーシェ「オダリスク」、ジャン・シメオン・シャルダン「猿の画家」など、これらはいずれも油絵具で描かれた油絵なのですが、一方で当時のフランスではパステルによる肖像画が熱狂的な人気を博しており、数千人のパステル画家がいたと言われます。

パステル画というと、少なくとも現在の日本ではどういう訳かラフなスケッチ画のように思われているのか、油絵などに比べて影の薄い存在ですが、当時のフランスではすでに完成度の高い作品が描かれています。後の印象派の画家の中で最もパステルに熱心だったドガは当時のモーリス・カンタン・ド・ラ・トゥールの作品を収集し研究したと言われます。

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©The Staatliche Kunstsammlungen Dresden
ロザルバ・カリエラ(Rosalba Carriera 1674-1757)
「Faustina Bordoni」
size:445x335㎜

ロザルバ・カリエラはヴェネツィア出身の女性画家で、ルイ15世時代のフランスで活躍し、パステル画の開拓者的存在と言われています。19世紀以前に名声を得た数少ない女性画家のひとりです。
作品が収蔵されている主な美術館: Museum of 18th century Venice(イタリア)、Gemaldegalerie Alte Meister(ドイツ)、Art Gallery of Ontario(米国)、ROYAL COLLECTION TRUST(英国)

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©Musee du Louvre, dist.RMN-Grand
Palais-Photo M.Back-Coppola
モーリス・カンタン・ド・ラ・トゥール
(Maurice Quentin de la Tour 1704-88)
「ポンパドゥール侯爵夫人の全身像 」
Portrait en pied de la marquise de Pompadour
size:1770x1300㎜

Chabod Christineはこの絵について次の様に解説しています。
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ポンパドゥール侯爵夫人は、青緑の色調に塗られ、金色で引き立てられた木工細工で飾られた一室に腰かけている。侯爵夫人の豪華な衣裳―1750年頃流行したフランス風の絢爛なドレス―が、誇示する意図を示しているのに対し、夫人が宝石を身に付けておらず、髪型も簡素なことから肖像画の私的な性格が強調されている。夫人は、文学、音楽、天文学、版画を象徴する持物(じもつ)に囲まれ、芸術の庇護者として描かれている。テーブルの上には、素晴らしい静物として、グアリーニの『パストール・フィード』、『百科全書』、モンテスキューの『法の精神』、ヴォルテールの『アンリアード』、球体、ピエール=ジャン・マリエットの『石版彫刻に関する概論』や、ここでは「ポンパドゥール夫人彫る」とドラトゥールが署名したケイリュス伯爵の版画がとなり合って並んでおり、夫人が版画に関心を寄せ、実際に制作していたことをほのめかしている。美術と文学のこうした典拠は、夫人の計画と読まれるべきである。ルイ15世を変わらず愛していた夫人は、国王を変え、礼儀作法と原則に凝り固まった宮廷には届かない、当時パリを活気付けていた知性、道徳、哲学、政治の並外れた発展を国王に見出させようともくろんだ。国王はこの肖像画を見たはずだが、果たして侯爵夫人の選んだ著作がほのめかした意味を理解したのであろうか。国王と侯爵夫人の間のやり取りは分からないままであろうが、寵妃がほのめかしたかくもリベラルな計画を国王が受け入れなかったのは明らかである。
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この作品はルーヴル美術館に収蔵されていますが、作品保全上の理由で一般公開されていません。

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©The Art Institute of Chicago
ジャン・シメオン・シャルダン
(Jean-Baptiste Simeon Chardin 1699-1779)
「日除けを付けた自画像 (1776年)」
Self-Portrait with a Visor
size:457x374mm

ヴァートのフェード・ガラント(貴族の恋愛遊戯的な「雅宴」を主題とした作品傾向)の流れの中で甘美な色彩と表現に終始していた時代にあって、シャルダンは貴族や神話世界に無縁の市民生活を主題として描き、オランダ派で写実に忠実だった画家で、健康的な理由もあったのかパステル画は晩年になって手掛けています。

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