クロード・モネの黄色いレンズのメガネ

モネ展(東京都美術館、2015/9/19-)では、モネが晩年に使用したとされる黄色いレンズのメガネが展示されていて、白内障の術後の色補正用に使用されたと言われています。

モネは晩年に白内障を患い、その影響で作品がもやもやと黄褐色がかった色調を呈したとよく言われますが、実際のところその見え具合がどうだったのかとなると、何とも言い難いところです。
1911年前後には相当視力が低下した状態であったようですが、1923年に右眼のみ手術を受けています。
次の映像は1914年のモネとされる映像ですが、症状が進んだ状態でありながら、全体のイメージをつかみながら大画面に描いているということなのでしょう。

Film of Impressionist Painter Claude Monet at Work (authentic video)

白内障は眼の水晶体が白濁または黄濁して光がさえぎられ物が見えにくくなる疾患で、放置すると失明状態となり、さらにさまざまな合併症の危険が高まると言われています。
白内障の実際の見え方は人それぞれ異なると思いますが、光の性質から考えると濁った眼の中では短波長より長波長の方が通過しやすいので、短波長の青系光が眼の奥まで届きにくくなり、長波長の黄や赤は相対的に認識されやすくなり、これに乱反射で像がダブって、さらにフレアーがかかると複雑な見え方になりますが、なによりも眼の奥に届く光が全般的にさえぎられるので、色の明度・彩度ともに低下した状態と言えます。
白内障の疑似的な見え方体感となると、透明性の低い半透明のビニール袋越しに物を見ていただくと明度・彩度が落ちて色相が変わり、色味という点では少し体感できるのではないかと思います。ビニールの重ね枚数を増やせば、色や形が見えなくなり光だけになります。

2015年の現代では医学や医療技術の進歩で白内障手術は比較的安全な手術といわれれる部類に入っていて、失明状態になるまで放置されることは少ないと思いますが、1900年代初頭のモネの時代では危険な手術であったわけで、手術方式も高度ではなく、点眼用の麻酔はあったようですが、現代でも要注意とされる術後の合併症を防ぐ薬はなかったようなので、モネがためらったのも無理はありません。

現代では水晶体を吸引除去したあと水晶体の代わりに人工のレンズを眼内に入れますが、モネの時代にはそんなものはないので、物を見るためには眼鏡を付けなければならず、モネのように片目だけの手術となると左右の視力調整が出来ず、結果視度差が生じて、実際問題として両目で同時に物を見るということができず、これは不便です。

人間の水晶体や角膜には防護機能があって短波長の青系光をカットする働きがあるそうなのですが、手術で水晶体を取り除いてしまうとその防御機能がなくなって、理屈では青系光の量が増えることになりますが、実際のところ色の見え具合にどのくらい影響があるのかとなると、これは人それぞれということのようです。

現代ではスポーツや医療の分野で、イエローレンズが当たり前のように様々な目的で使用されていますが、モネが自分のカラーイメージを求めて青系光をカットする効果のある黄色いレンズの眼鏡を使用したとすれば、それは切実な選択肢とは言え、随分と先進的なアプローチです。

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