フランドルルネサンス_ベルギー

新春はたまたまベルギービールを味わったのですが、写真の品はトラピストビールと呼ばれる種類で修道院の醸造所で造られているものだそうで、すこぶる味わい深いビールです。左のシメイトラピストブルーはアルコール度9%で、ラベルには1862年から製造が開始されたとあり、ピリッとした味と豊かな香りが奥深く上々です。右のアヘルブラウンはアルコール度8%で、近年醸造が再開されたようで、甘渋い香りが幾層にも広がります。ビール自体は中世の時代から造られていたようですが、ベルギーの気候風土や文化の中で造られ生まれてきた個性豊かな味わいに感心しながら、ベルギーが独立する遙か前の中世~近世のベルギー界隈であったフランドルに思いを巡らせました。



日本では昨年後半から今年(2015年)にかけて、イタリアルネサンス時代の美術作品の展覧会が目白押しですが、そのルネサンスが最初に花開いたイタリアのフィレンチェの機運に刺激されながら、北方ヨーロッパでもルネサンスが開花して行きますが、その中心となったところがフランドル地方でした。
フランドルは14世紀頃から交易の発達に伴いイタリアに劣らないほどに商工業が盛んになりますが、元来農業国で地理的条件で見れば気候や土地に恵まれていたわけではなく、絶えず厳しい自然と対峙しなければならない環境にあり、イタリアルネサンスが古代ローマ・ギリシャ風であったことに比べ、フランドルルネサンスが自然主義風であったのは、その文化風土の違いに由来すると言えそうです。

フランドルは織物業の栄えたところですが、ルネサンス文化が成熟するに連れその中心地であった現在のベルギーのブリュッセルの織物、またレース、刺繍は他の追随を許さない程に発展します。
イタリアのフィレンチェと同様に織物業が栄えたフランドルでルネサンスが開花したというのは奇遇ですが、文化的な新しい胎動が起るのは常に商工業活動が活発で市民レベルの自由な経済発展をした地域である、ということに美術の歴史を巡っていると気づきます。
当時、イタリアに始まったルネサンスが開花した国は、フランドル、フランス、ドイツなどで、これに比べスペイン、イギリスではその波及は小さいものでした。

織物業の発展が直接的にルネサンスを推進したわけではないものの、織物業の発展に伴ってその地域に様々な染料が集積し、絵画などの着色に流用出来得る色材の入手がより容易であったであろうということは想像できそうです。

絵画技法史の中で忘れてはならないのが、このフランドルで始まった本格的な油絵具の登場です。油を絵具の媒材として用いるというのは古くから経験的に行われていましたが、日光にかざすことなく乾燥し又より透明な媒材という点で、後世につながる油絵具の登場です。この発展に寄与したのが15世紀のフランドルの画家達で、その中心となったのがファン・アイク兄弟です。やがてこの油絵具の技法はイタリアに伝わり、特にヴェネチアでさらに発展して行きます。なぜヴェネチアなのかというと、ヴェネチアは湿度が高くフレスコ画には向かない土地柄だったので、弾力に富む油絵具は画家達にとっては絶好の材料でした。
当時ヴェネチアで活躍し油絵の可能性を開拓した画家として知られているのはティッツアーノです。近々公開される映画「ナショナル・ギャラリー 英国の至宝」のラストシーンで、英国ロイヤル・バレエ団の2人のプリンシパルが幻想的な踊りを繰り広げる場面の壁面を飾る絵画が、このティツアーノの作品です。

フランドル地域は歴史の変遷の中で、15世紀に他の地域とともにスペイン領ネーデルランドとなり、17世紀初頭に北部7州が独立してオランダとなった後も、南部は引き続きスペイン領として残りますが、この南ネーデルランドが現代のベルギーにつながります。
ネーデルランドを思い起こさせる歴史の戯言の如く、アヘルを醸造しているベルギーのアヘル村のベネジクトゥス修道院はオランダとベルギーの国境にまたがって建てられています。⇒MAP 

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