和紙_ユネスコ無形文化遺産_美濃和紙

昨年2014年末に和紙のユネスコ無形文化遺産への登録が決まって以降、対象となった「石州半紙」(島根県浜田市)、「本美濃紙」(岐阜県美濃市)、「細川紙」(埼玉県小川町、東秩父村)を中心に和紙の話題が各方面で取り上げられることが多くなりました。
和紙そのものが登録されたようなイメージになっていますが、そうではありません。
登録の対象は和紙そのものではなくてその和紙を作る手すき和紙技術で、その登録基準要件はその技術を次世代に伝承する体制が整っていること、言い換えれば、特定の技術の保護伝承に努めている保存団体が存在することが必要です。例えば、美濃市のホームページに《美濃和紙「本美濃紙」今後の事業展開(案)/美濃和紙伝承「千年プロジェクト」》というものが記載されていますが、その実効性の是非はともかく、こうした地域的な取り組みが登録の前提にあります。伝統的な和紙製法を歴代守り続けている個人、というのは当然その対象になりません。

一口に和紙と言ってもその範疇は広く、伝統の技法と熟練の職人技で生み出された和紙も和紙であるし、あるいは機械で漉かれた和紙も和紙であるし、また特定の伝統技法ではなくても和紙原料を使用して漉かれた紙も品質はともかく和紙です。
紙を漉く時の「流し漉き」が和紙の特色のように解説した記事も見受けられますが、確かに歴史的変遷や今回対象となった和紙はそうなのですが、「溜め漉き」で作られ独特の風合いを持つ和紙もあります。技法はあくまで目標の品を創るための手段なので、目標が異なれば技法も異なります。

和紙は、古くからの仏教経典の写経用紙など文字を書く用途以外に、傘・襖・障子・器等の生活用品、あるいはまた版画・絵画等の画紙、またタイプライター用の薄葉紙、等々さまざまなところで使われてきましたが、手すき和紙産業全般で見れば、年々とそのシェアーを落とすとともに、経済産業省の統計によると、和紙生産に携わる人口は2012年620人余りで、1960年の1万人余りに比べると10分の1以下、という状況です。

「美濃和紙」と一般的に呼ばれる紙は、絵画の分野でも古くからポピュラーな紙なのですが、昨年無形文化遺産登録の対象となったのは、その中の「本美濃紙」の伝統技法です。現在、絵画向けに流通している通常品は「新美濃紙」と呼ばれるものです。
もう15年も前になるかと思いますが、当時私は画材商社でジェネラルマネージャーをやっていて、取引先の和紙問屋さんから『美濃紙の価格維持が困難となったための値上げ見積書とサンプル』が商品部門へ届いて、この種の商品群は最終的に私が目を通すことにしていたのですが、値上げは仕方ないとしても、その紙はどう見ても美濃紙の品質レベルに届いていなくて、結局このサンプル紙は海外生産の楮紙でしたが、生産者の後継者問題も抱えながら需要と供給のバランスが崩れた中で、市場へ安定供給をするというのは、和紙問屋さんにとってもなかなかと大変なことだと思ったものです。

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