風俗画!ルーヴル美術館展「日常を描く---風俗画に見るヨーロッパ絵画の真髄」!

≪ルーヴル美術館展「日常を描く---風俗画に見るヨーロッパ絵画の真髄」≫が国立新美術館で開催中〈東京六本木、~6月1日〉です。3月27日現在で来場者が20万人突破ということで、なかなかと盛況の様子です。
この展覧会は京都へ巡回されますので関西以西の方には京都が好都合です。
=京都展=
会場:京都市美術館(京都市左京区・岡崎公園内)
会期:2015年6月16日(火)-9月27日(日)
京都展開催概要:http://www.ytv.co.jp/louvre2015/info/index.html

展覧作品は「風俗画」としてしまうにはやや枠を超えているし、またカテゴリー別の構成はそれはそれで面白い発見もあるかも知れないものの、結果的には断片的で作品の地政的関係が希薄、悪く言えばごちゃまぜになっているので、流れ的にはわかりづらいのではと心配しつつ、それはさておき、特段に「風俗画」とうたわなくても良い程に主だった作品が並んでいるので、年代と地域さえ踏まえて観れば、ルネサンス以降の16~18世紀のヨーロッパ絵画の変遷に触れることができます。また、展覧作品に共通することは「キャンバス(画布)に描かれた油彩画(一部「板」)」であるので、ルネサンス以降本格化する油絵の地域性を見ることもできます。ただ、絵具は現代のようにチューブから絞り出してすぐ使えるような便利なものはなく、また色数も少ないものでした。

純粋に独立した「風俗画」又「風景画」がヨーロッパに展開するのは17世紀のオランダで、その時代のオランダを代表する作家は、レンブラントまたフェルメールですので、この17世紀オランダを基準に、16世紀のヴェネツィア絵画、フランドル絵画、スペイン絵画、18世紀のフランス絵画を比較しながらご覧になれば、絵画的傾向の違いが解説なしになんとなくわかるのではないかと思います。絵を飾る額縁にも国や時代の風潮が反映されているので、作品と合わせ額縁にも少し気を留めながらご覧になると良いと思います。但し、すべてがフランスルーヴル美術館で展示に使用されている額縁という訳ではありません。フェルメールの「天文学者」もイメージは類似していますが、ルーヴルでの額縁とは異なります。

「風俗画」という言い回しは美術の分類で便宜的によく使われますが、「風俗画」の対比語は、15世紀的視点に立つと「宗教(教会)画」、18世紀的視点に立つと「神話画」とか「歴史画」あたり、が相当しそうです。「風俗画」というジャンルありきで作品が出来ているわけではないので、あまりジャンルにこだわらずに観る方が良さそうです。

紀元以降の西洋美術の変遷は、極言すれば宗教(キリスト教会)美術の歴史です。時の権力者はキリスト教と密接な関係を保ちながら勢力を拡大して行き、これが西洋中世の封建制時代で、やがて、市民レベルの商工業活動が旺盛になって経済力が高まり、交易の拡大で物が豊かになり、市民生活が充実し、自由な市民が社会生活の基盤になってゆくに連れ現実の生活に関心が向けられる機運が高まり、ルネサンスが起り中世封建制時代は終焉を迎え、美術が教会のための存在から解き放たれます。
一方で国家勢力の王権は次第にその商業力を背景に伸張し、現実の豊かさを謳歌するとともに、大国が互いに競い合うようになり、またそれらにキリスト教の旧教・新教の争いが絡み、その発展の消長に伴い学問・美術も伸展して行きます。

ルネサンスによって「宗教美術」という束縛から解放された美術のその後の経過は、極めて大雑把に分けると、キリスト教新教を奉じた地域では、自由を尊ぶ精神の下で自然科学や活力ある新しい絵画が育ち、一方キリスト教旧教を奉じた地域では、専制的な王権と旧教が結び付いて権力を誇る宮廷趣味の絵画が育ちます。前者の国がオランダであり、後者の国がイタリア・スペイン・南ネーデルランド(スペイン統治下にあった現在のベルギー)・フランスで、古典を尊ぶ「神話画」や権威誇示の歴史的出来事を描いた「歴史画」が上位に位置する崇高な絵画という風潮が必然的に育ちます。
美術の全体的な流れとしては、17世紀イタリア・スペインを中心としたバロック美術、18世紀のフランスのロココ美術へと推移して行きますが、国によってその進捗度合いにはギャップがあり、例えば17世紀のフランスは1世紀周回遅れ状態で、また同じ国同じ時代に勢力的に主流であったものとそうでないものが同時に存在します。

展覧作品に描かれている人々は様々です。必ずしも現実が客観的記録的に描かれているわけでもなく、その意図や内容は画家、あるいは国や時代によって異なっています。共通するところは、中世時代と異なり、現実の人間生活に目が向けられている点だと言えそうです。

16世紀のイタリア及びフランドルの絵画

©Musee du Louvre / Martine Beck-Coppola
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 「鏡の前の女」1512-1515年
ルネサンス以降その精神が実践された時代、ヴェネツィア特有の理想的女性美を描いた作品です。ヴェネツィア派の画風はローマ画風に比べ官能的で豊かな色彩に溢れます。
ティツィアーノの明るく温かな光を含んだ華麗な色調は次の17世紀絵画のベルギーのルーベンス、オランダのレンブラントにも多大な影響を与えたと言われます。

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©Musee du Louvre / Angele Dequier
クエンティン・マサイス 「金貸しとその妻」1514年
北方フランドルは、ローマ・ギリシャ文化に縁がなかったためか、ルネサンス以降その影響を強く受けた地域で、イタリア画風の形態的模倣が蔓延<ロマニズム>します。
マサイスはイタリア風+北方写実風ながら、淡々と客観的記録的に描いたというよりは、道徳絵画風で、フランスルーヴル美術館の添付解説の一文には次のような記述があります。
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夫の前に散らばる金、真珠(色欲の象徴)や宝石の誘惑が、彼の妻を聖書の読解という精神的活動からそらせている。背景に配されたオブジェは、入念に選び抜かれ、作品の持つ道徳的な要素を強調している。火の消された蝋燭と棚の上の果実は、本質的な罪の暗示で、腐敗を予告し死を喚起している。水差しとぶら下がったロザリオは、聖母の純潔を象徴している。さらに小さな木箱は、女神が隠れた宝石箱を表現している。・・・

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©RMN / Gerard Bloct
ピーター・ブリューゲル 「乞食たち」1568年
北方特有の土に密着した世俗的で平凡な日常生活に目を向けた北方写実画家ですが、この作品は、淡々と描いたというよりははるかに寓話的です。乞食のかぶる帽子は、ボール紙の王冠、兵隊の紙帽子、ブルジョワ階級のベレー帽、農民の縁無し帽、司教のミトラ(僧帽)で、スペイン統治の圧制への反旗とも受け取れます。
「風俗画」という切口ならば、「農民の婚礼」(1568年)の方が良さそうですが、こちらの作品はウイーン歴史美術館のコレクションなので、今回の企画のようにルーヴルのコレクションのみでとなると、ルーヴルのコレクションを持ってしても美術の流れをスムーズに展示出来ないといってブリューゲルを外すわけにはいかないので、結果展覧の作品となったのでしょう。
今回の展覧作品には含まれませんが、「農民の婚礼」を掲載しておきます。

©kunst historisches museum wien
ピーター・ブリューゲル 「農民の婚礼」

さてさて、まだまだ作品をご紹介したいところですが、あとは実際に美術館に足を運んで、画面画像ではなくオリジナルの絵をご覧ください。
オリジナルに勝るものはありません。

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